事業会社とエージェンシー、両方の視点から見えてきたこと[CMO 趙恩淳]

INTERVIEW

why now ‘getting out of the box’ ?

事業の成果から、クリエイティブを考える

これまで、エージェンシーと事業会社の両方でマーケティングに携わってきました。その経験を通じて感じているのは、同じマーケティングに向き合っていても、立場によって考えるべきことや、見えている景色が大きく違うということです。

目次
CMO 趙 恩淳

事業側の「あるある」を、言葉にする。

事業会社とエージェンシーでは、見えている景色が違う

エージェンシーでは、限られた予算の中で、いかに効果的な施策を実現するかを考えます。一方、事業会社が考えているのは、その投資によって事業をどう成長させるか。投資した金額に対して、どれだけ大きなリターンを生み出せるかということです。

事業会社のマーケティング担当者は、自社の商品や事業課題について、日々考え続けています。市場や競合の動きを見ながら、何を変えるべきか、どこに投資すべきか、どうすれば売上や市場シェアを伸ばせるかを考えています。

だからこそ、外部のパートナーに求めるのは、単に新しい施策やアイデアを提案してもらうことだけではありません。自分たちが見ている課題を理解し、事業の成長につながる解決策を一緒に考えてくれることです。

例えば、外部から提案を受けたときに「その提案、聞くのは6社目ですよ」と感じることもありました。提案に新規性がないというだけではなく、実現できない理由が解消されないまま、似たような提案が繰り返されていることもあるのです。

予算や社内のリソース、関係者を説得するための根拠。事業会社には、アイデアを実行に移すまでに越えなければならない壁があります。

私たちが大切にしたいのは、そうした背景まで理解することです。「何を実現したいですか?」と聞くだけでなく、「なぜ、これまで実現できなかったのでしょうか?」と問いかける。表面的な要望の奥にある課題を理解することで、初めて、本当に必要な解決策が見えてくると考えています。

事業の課題を、戦略とクリエイティブにつなぐ

事業側の「あるある」が痛いほどわかるからこそ、言語化しづらい「奥底の課題」までヒアリングしたり、察したりすることを心がけています。

事業と制作。その立場の違いをつなぐ「翻訳機」になることが、私自身のテーマです。

事業会社とエージェンシーの間には、課題の捉え方や、成果に対する考え方の違いがあります。その違いを埋めるためには、事業側が抱えている課題を深く理解し、戦略やクリエイティブの現場が具体的に動ける形に翻訳することが必要です。

事業会社が抱えている課題は、必ずしも最初から明確な言葉になっているわけではありません。「売上を伸ばしたい」「認知を高めたい」という要望の背景には、競合との関係や顧客の購買行動、社内の事情など、さまざまな要因があります。

それらを一つずつ整理し、何を解決すべきなのか、誰に何を伝えるべきなのか、どのような行動につなげたいのかを明確にしていく。そのうえで、クリエイティブの力を最大限に生かせる戦略を設計することが重要です。

優れたクリエイティブを生み出すことは、大きな価値です。しかし、どれだけ魅力的な提案であっても、事業側がその価値を理解し、社内で合意を得て、実行に移せなければ成果にはつながりません。

だからこそ、私たちはクリエイティブを提案して終わりにするのではなく、その価値を伝え、実現に向けた道筋をつくり、事業の成果につなげるところまでを大切にしたいと考えています。

事業側の視点と、クリエイティブを生み出す側の視点。その両方を理解し、間にあるギャップを埋めること。それが、私たちがクライアントと仕事をするうえで大切にしたい役割です。

数字だけでも、クリエイティブだけでも、成果は生まれない。

事業会社でマーケティングに携わる中で、特に意識していたのは、市場シェアや競合の動き、そして「なぜ、お客様は自社の商品を選ばないのか」という問いでした。

数字を分析することで、商品の売れ行きや市場での立ち位置は見えてきます。しかし、数字だけでは、お客様がなぜその商品を選んだのか、あるいは選ばなかったのか、その理由までは分かりません。

実際に店舗へ足を運び、お客様が競合商品を手に取る様子を観察する。どんな情報に目を留め、何を比較し、どんな理由で購入を決めるのか。そうした行動を知ることで、データだけでは見えなかった課題が見えてくることがあります。

商品の機能や価格を伝えることは大切です。しかし、機能を説明するだけで、人の習慣や行動が変わるとは限りません。お客様の心を動かし、選ぶ理由をつくるためには、感情に働きかけるメッセージやクリエイティブの力が必要です。

一方で、どれだけ優れたクリエイティブでも、必要なお客様に届かなければ成果にはつながりません。

クリエイティブを車に例えるなら、広告予算はガソリンです。車そのものの性能が優れていても、走らせるための燃料がなければ目的地にはたどり着けません。反対に、燃料が十分にあっても、目的地に向かうための車が適切でなければ、期待する成果は得られません。

大切なのは、クリエイティブの質と、それを届けるための投資を、事業の目的に合わせて設計することです。

私たちは、数字と人の感情のどちらか一方に偏るのではなく、両方を理解したうえで、事業の成果につながるコミュニケーションを考えていきたいと思っています。

お客様との接点を、一つのストーリーとして捉える

マーケティングでは、認知を獲得するための施策、興味を持ってもらうための施策、購入を後押しするための施策など、さまざまな取り組みが行われます。

しかし、それぞれの施策が個別に最適化されていても、全体として成果につながるとは限りません。

広告で興味を持ってもらっても、その先の商品情報が十分でなければ購入には至らないかもしれません。優れたクリエイティブを制作しても、届ける相手やタイミングが適切でなければ、期待した効果は生まれません。

必要なのは、お客様との接点を個別の施策として捉えるのではなく、関心を持ってもらう入口から、購入という出口までを一つのカスタマージャーニーとして設計することです。

戦略とクリエイティブ、クリエイティブと広告配信、認知と購買。それぞれを分断せず、どの接点がどのように次の行動につながり、最終的な事業成果に貢献するのかを考える必要があります。

そのためには、課題を理解することから始まり、戦略を描き、クリエイティブを考え、実行し、結果を検証する。それぞれの工程をつなぎ、当初の目的と実際の成果が結びついているかを確かめ続けることが重要です。

私たちが目指すのは、個々の施策を納品して終わる仕事ではありません。お客様との接点全体を見渡し、戦略から実行、そして成果までを一つの流れとして捉え、クライアントと共に考え続けることです。

AIの時代だからこそ、人の経験や感性を生かす

AIの進化によって、マーケティングやクリエイティブの仕事は大きく変わり始めています。アイデアを広げることも、コンテンツを制作することも、以前より速く、効率的にできるようになりました。

私たちも、AIの可能性を積極的に活用していきたいと考えています。

ただし、制作の効率が上がることと、事業の課題が解決されることは同じではありません。

何を課題として設定するのか。数ある選択肢の中から何を選び、何を選ばないのか。どんなメッセージなら人の心を動かし、行動につながるのか。

こうした判断には、データや技術だけでなく、現場で培われた経験や、人に向き合う力が必要です。

AIを活用することで、できることは増えていきます。だからこそ、何を実現するためにAIを使うのかを考え、得られたアウトプットをどう判断し、どう事業に生かすのかが、より重要になっていくと考えています。

テクノロジーによって可能性を広げながら、人の経験や感性、判断力を掛け合わせる。その組み合わせによって、より本質的な課題解決を実現していくことが、これからのマーケティングに求められる姿だと思います。

同じゴールを目指せるパートナーであるために

事業会社で外部パートナーを選ぶ立場にいたとき、重視していたのは、最初の提案の完成度だけではありませんでした。

こちらの話をどれだけ真剣に聞いてくれるか。対話を通じて、提案をより良いものに変えていけるか。そして、提案を採用してもらうこと自体ではなく、その先にある事業の成果を一緒に目指してくれるか。

事業会社には、社内の事情や制約があります。施策を実現するためには、関係者を説得し、予算を確保し、実行できる体制をつくらなければなりません。外部パートナーには、そうした現実も理解しながら、どうすれば前に進められるかを一緒に考えてくれることを期待していました。

実際にクライアントとしてgootboxと仕事をしたときにも、対話を重ね、課題に向き合おうとする誠実な姿勢を感じました。

私たちが大切にしたいのは、発注する側と受注する側という関係を超え、同じゴールに向かうチームになることです。

依頼されたことをそのまま形にするだけでなく、必要であれば問いを立て直し、本当に解くべき課題を一緒に考える。提案をして終わりではなく、実現に向けて知恵を出し合い、成果につながるまで向き合う。

そのためには、互いの立場や専門性を理解し、率直に対話できる関係が欠かせません。クライアントの課題を自分たちの課題として捉え、一緒に考え、動いていくことが、より良い仕事につながると考えています。

人をつなぐ”ハブ”でありたい

人と専門性がつながることで、新しい価値が生まれる

これまで仕事を通じて、マーケティング、クリエイティブ、デジタル、EC、AIなど、さまざまな領域のプロフェッショナルと出会ってきました。

それぞれの領域で経験を積んだ人たちが、自分の専門性を発揮しながら、同じ課題に向き合う。そこには、一人では生み出せなかったアイデアや、新しい価値が生まれる可能性があります。

私が魅力を感じてきたのも、何かをつくり出す現場にある熱量です。戦略を考える人、アイデアを生み出す人、表現を形にする人、技術を持つ人。それぞれが力を合わせることで、一つの仕事が形になっていく。その過程に、大きな面白さがあります。

gootboxの強みは、すべてを自社だけで完結させることではありません。クライアントが抱える課題に応じて必要な人や専門性をつなぎ、時には企業同士をつなぐことで、新しい可能性を生み出せることです。

事業の課題を理解し、戦略を描く。そして、クリエイティブによって人の心を動かし、それを実現できる人たちをつなぐ。さらに、実行した結果を確かめ、次の改善につなげていく。

この一連の流れを分断せず、クライアントと共に考え、動き、成果を目指すこと。それが、私たちがつくっていきたい仕事のあり方です。

熱量が集まる場所を、つくる

事業会社とエージェンシー、それぞれの視点を理解すること。数字と人の感情をつなぐこと。戦略と実行をつなぐこと。そして、異なる経験や専門性を持つ人たちをつなぐこと。

私たちは、目の前の依頼に応えるだけでなく、その背景にある課題を理解し、必要な知恵や力を持ち寄りながら、クライアントと共に解決策を考え続けたいと思っています。

一つひとつの仕事を通じて、事業の成長につながる価値を生み出す。そのために、私たち自身も学び、考え、さまざまな人と協働しながら、仕事の可能性を広げていきたいと考えています。

対話を通じて、提案をより良いものに変えていけるか。
その先にある事業の成果を一緒に目指すパートナー。

趙 恩淳 Eunsoon Cho

株式会社gootbox 取締役 CMO

Lenovo・NECでコンシューマーマーケティングやメディア戦略を統括。Johnson & Johnson、eBay Japan、adidasなどで、デジタル・メディア・ECを横断したマーケティングを推進。2026年、株式会社gootbox取締役CMOに就任。事業会社で培った経験とマーケティングの専門性を活かし、事業課題の整理から戦略立案、実行までを支援する。